パッション


パッション [DVD]

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ストーリー:
紀元前700年のエルサレム。ある日、イエス十二使徒のひとりであるユダの裏切りによって捕らえられる。イエスを尋問した大司祭カイアファは、イエスが自らを救世主であり神の子と認めたとして激怒し、イエスが神を冒涜したと宣告する。ローマ帝国総督ピラトのもとに身柄を移されたイエスは、そこでも揺るぎない姿勢をみせる。やがて荒れ狂う群衆に気圧され、ピラトはイエスを十字架の刑に処する判決を下す。凄惨な鞭打ちを受け変わり果てた姿となったイエスは、ついに十字架を背負いゴルゴダの丘へと歩を進める…。


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久々の更新はクリスマス。そしてそんな日に観た映画はキリストの受難を描いた「パッション」です。


公開直後からショッキングなシーンの論議がなされた映画でした。キリストが受けた数々の肉体的な受難は確かに目を覆うものがあります。それはテレビでしか戦争を体験してない多くの日本の特に若い世代では想像が凄惨な場面ですが、これと同じようなもしくはこれ以上の愚行が世界で未だに行われていることでしょう。
恐らく監督であるメル・ギブソンが描きたかったのはこういった目に見える凄惨さではなく、人間の心の悪の部分の恐ろしさ(それを図像化したものがキリスト教美術などに登場する悪魔なのでしょう)であると解釈したい。罪人を釈放し、無実のイエスを磔にせよという群集と、自らの立場を守るため群衆に圧倒され正しい判断が下せなかったローマ英国総督、イエスを捉えた大司祭の一行にイエスに執拗な鞭打ちを楽しむかのように行う人々。私はこれらの行為を一種の快楽殺人と観て、近年の日本において起きているいくつかの理解不能な殺人事件と重ねて観ました。もちろん監督はこの日本の状況を視野に入れて製作したわけではないけれど、人間の心の中には人が苦しんだり人が流す血を見たいという原始的な欲求が潜んでいるのではないかと、この映画を観て確信しました。そして社会に対する憤りや焦燥感を弱いものを痛めつけることで発散させようとする人間の心の弱さも同時に見せ付けられた気持ちになりました。
また、宗教と政治は密接なもの。この映画にも政治的な意図が少なからずあるような気がします。それはプロパガンダかもしれないし、アメリカが押し切ったイラク攻撃に対する抗議とも取れます。
いずれにしてもこの映画はストーリーそのものを楽しむというよりも、キリスト受難という一連の歴史的事実に様々な意図を重ね合わせ、それを映像という形にイコン化したものではないかと思いました。


重い話になりましたが、みなさんの幸せを祈ってメリー・クリスマス!


(2004年/アメリカ・イタリア)
原題:THE PASSION OF THE CHRIST
監督:メル・ギブソン
出演:ジム・カヴィーゼルマヤ・モルゲンステルンモニカ・ベルッチ